再生可能エネルギーの大量導入のために、電気自動車をバッテリーとして活用する。/九州工業大学 三谷 康範 教授

2012年7月掲載

代表者 九州工業大学 三谷 康範 教授
共同研究者 立命館大学 福井 正博 教授、徳島大学 北條 昌秀 准教授、九州工業大学 渡邊 政幸 准教授

※肩書きは採択時のものです。

震災を経た今、大きくクローズアップされているのが、再生可能エネルギーとその大量導入による電力システムへの影響です。お天気任せのところがあり、実現に至るまでには様々な課題があります。九州工業大学・三谷 康範教授を代表とする研究チームは、電気自動車を電池(バッテリー)として活用する新たな電力システムによって、この課題を解決しようと試みました。

エネルギー問題は、異分野との連携なくして解決しない

Q.「パワーアカデミー研究助成」に応募したきっかけをお教え下さい。

2010年度の特別推進研究の募集テーマが 「低炭素社会の実現に向けた電気エネルギーの高度利用」であり、そこに、「大学間の連携などを通じた先駆的かつ電気工学分野への波及効果が期待できる研究」とありました。エネルギー問題や低炭素化問題のように最近の難しい諸問題の解決には小さな領域で閉じこもっていたのではダメだと常々感じており、異分野の連携を拡大しようと奔走しています。こうした中で、回路とシステムに関する国際会議に参加したところ、たまたま再会した旧知の人物が電池の適正管理の解析を行っていると聞き、即座に声がけして協議した結果、本応募に至りました。自身のテーマとして自然エネルギーの出力変動を安価に抑える方法として電気自動車を利用した話を展開しており、その際の電池の使い方が気になっていたところなので、良いマッチングが得られました。

“電池”として電気自動車を性能評価する

Q.研究内容をお教え下さい。

低炭素社会への道筋の1つとして、再生可能エネルギーの大量導入が謳われています。お天気任せのこれらの電源からの不確定で変動の大きい電力を大量に受け入れることができるインフラとしての柔軟な電力システムの実現を目指す研究です。そのために、将来、大量普及が確実な電気自動車の充電制御を個々に行い、結果として電力システム全体では変動が緩和されることを目指しています。このときの我々のキーワードは「電池の性能」になります。そこで、自然エネルギーの変動補償を行っているときの電池から見た性能評価を行いつつ研究を進めてまいります。その一方で、せっかく太陽光発電(PV)と電気自動車(EV)がつながっているのですから、万一の停電時には、自立した電気エネルギーの供給を安価でかつ高信頼度にて行うシステムを同時に構築します。

EV・PV大量導入のシミュレーションの構築に成功

Q. 現在までの研究成果と今後の展開についてお教えください。

大学キャンパス内に2台の電気自動車を導入し、生協と事務局に実運用してもらっています。これにより、研究室屋上に取り付けた太陽光発電の変動分にあわせて、停車中の電気自動車の充電をオンオフするための通信制御ネットワークを構築して、フィールド試験を行っています。無線LANと電力線搬送を用いて確実に動作指令を与えることと、制御アルゴリズムの有効性を確認しています。また、福岡県が実施した社会実験に協賛して電気自動車を貸し出し、そのときの走行データを取得しました。

以上に基づき、EVとPV大量導入時のシミュレーションを構築しています。このとき、電池への充電データも取得して、共同研究の立命館大学に提供して電池の適正利用を行う方法を検討してもらっています。一方、系統停電時にも電力供給を行うことができる自立システムの構築に関しては、九州工業大学で簡易版システムを構築しつつ、新しい回路の開発検討を徳島大学で行ってもらっています。今後この共同研究体制をさらに密なものとして、電気エネルギーシステムの中の電気自動車の役割を明確にしていく計画です。(※その後の研究成果を2013年2月に追記しました。)

EV・PV大量導入のシミュレーションの構築に成功

電気は、未来社会システムを“つなぐ”ための要となる

Q. 今後、パワーアカデミーに期待することをお教えください。

これまでのパワーアカデミー活動は、電気工学の発展に対して極めて大きな寄与があったと考えており、個人的にも大変感謝しております。しかしながらあまりにも電気工学分野の研究者のみに限定した話をしていると低炭素社会の実現などという大きなテーマは語れないと思います。従って、電気工学の領域に留まることなく、他分野との連携も視野に入れ、それによる電気工学の発展を目指す新たな道筋を作ることも重要ではないかと考えます。現実には難しい面も多々あるかと思いますが、他分野の研究者を電気工学側に引き込んでお互いに発展していくというスタイルを取れれば素晴らしい成果を出せるのではないでしょうか。

例えば私は、九州工業大学で、学内の連携を推進する役目を担っています。電気、化学、機械、建築などの横のつながりをつくる立場です。こうした様々な分野の人と話せるのは電気特有の強みではないでしょうか。電気は“つなぐ”ための要となり、システムのコーディネーター的立場を担う力があると思います。その辺りのことも考慮に入れていただきながら、パワーアカデミーの今後の活動を期待しております。

研究成果(2013年2月追記)

Q. 前回インタビューから約9ヶ月程経過しましたが、その後の研究成果について教えてください

九州工業大学:キャンパス内に実走行している電気自動車を用いて、太陽光発電の変動分を抑制するための制御系を開発しました。電気自動車の充電オンオフの切替えを行うために、制御指令を発する基準となる閾値を、従来の一定型(余剰電力を抑制する方式)に対して、移動平均値等を用いることにより閾値を変動させて設定する方式に変更しました。

太陽光発電変動電力を制御した結果の一例

太陽光発電変動電力を制御した結果の一例

徳島大学:多用される電力変換器を集約化した直流多端子電力変換回路を提案し、常時の系統連系動作及び非常時の独立運転方式の動作特性について、交流側電圧端子における電圧歪みや電圧不平衡なども含めて多面的な検証を行いました。非常時に太陽光発電と蓄電池のみで自立運転を行う場合、交流電圧指令値に対するスイッチングパターンの制約から一定の直流電圧脈動が避けられないものの、併設するコンデンサ容量の最適設計によって電圧変動を5%以内に抑制できることも明らかにしました。

独立運転時の回路図

独立運転時の回路図

立命館大学:EV連系を含む、蓄電池の詳細モデルを構築し、スマートハウスの電力管理に関する提案を行いました。蓄電池使用条件(温度、蓄電池残量や充放電深度等)を最適化することで、 電力および、PVや蓄電池劣化損失に係るコストを含むトータルコストを最大33%削減できることを示しました。

保存劣化モデル

保存劣化モデル

サイクル劣化モデル

サイクル劣化モデル(サイクル劣化モデルと実際の評価(誤差は10%以内に収まっている))


電気工学の未来