高効率な電気エネルギー伝送を支える、全く新しい電気絶縁材料の提案。/新居浜工業高等専門学校 加藤 克巳 准教授

2011年12月掲載

電気絶縁材料は、電力機器の高電圧化やコンパクト化を進める上で、性能向上をはかっていくことが不可欠です。新居浜工業高専の加藤克巳准教授は、「非線形誘電率材料」を採用することで、従来に無い画期的な電気絶縁材料になるのではと考えました。

産学連携で電気工学を発展させる、パワーアカデミーに共感

「パワーアカデミー研究助成」に応募したきっかけをお教え下さい。

研究助成については、パワーアカデミーのホームページで知りました。以前から電力分野の研究に携わっていたことから、パワーアカデミーの存在や活動については知っており、たびたびホームページも見ていました。電力分野を中心とした電気工学の発展を、産学協同体制のもと、様々な面でサポートに取り組むパワーアカデミーの主旨に共感するところも多く、電力分野を研究している自分も何らかの形で、微力であってもパワーアカデミーの活動に貢献できればという思いが以前からありました。そのため、今回の研究助成の応募がそのきっかけになるのでは、と考えました。

高電圧電力伝送を支える、材料の高機能化研究

ご研究内容をお教え下さい。

高電圧技術を支える電気絶縁材料を高機能化することで、巨大な電気エネルギー伝送を高効率化して、地球環境保全への貢献や、生活や産業を支える電気エネルギーの安定供給を目指しています。話をわかりやすくするためここでは、「巨大な電力を送る」ということを、「トラックで大量の荷物を運ぶ」という話におきかえて説明してみます。トラックで大量の荷物を運ぶためには、トラックの台数を増やす方法と、台数は増やさずトラックを大型化する方法と2通りが考えられます。後者の方が運送効率は良いですが、重量に耐えるための道路の改修が必要となります。高電圧で送電するというのはまさに後者の方法に相当します。電力伝送の効率が良い半面、高電圧に耐えるための電気絶縁の向上が必要であり、電気絶縁材料の高機能化が求められてくるわけです。

私の研究している非線形誘電率材料は、このような電気絶縁材料の高機能化が可能な材料です。非線形誘電率材料は、高電圧の負担を一ヶ所に集中することなく、材料全体に分散させる機能を自己の中に持っていて、これによって高電圧絶縁をよりスマートに実現することができる材料です。下図にその模式図を示します。「高電圧に耐える」ことを、この図では「上から加わる力をバネで支える」ことで例えています。バネは緑の丸の箇所で固定されています。従来は一つのバネで力に耐える構造でしたが、非線形誘電率材料は、バネを支える固定点を柔軟に変化させることで、5つのバネ全体で負担を分散させるような構造も持っており、より強い力に耐えることができるわけです。本研究では、従来材料とこの非線形誘電率材料の性能比較を計算機シミュレーションで明らかにしています。

非線形誘電率材料は、従来材料より高度な電気絶縁が可能になる

現在までの研究成果と今後の展開についてお教えください。

非線形誘電率材料には様々なタイプのものがありますが、今回は、ジルコン酸鉛(PbZrO3)と呼ばれる材料を研究対象としています。有限要素法という電界シミュレーション技法を使って、非線形誘電率材料と従来材料の性能比較を行い、非線形誘電率材料が従来材料に比べてより高度な電気絶縁を実現できる見通しが得られました。

今後の展開ですが、今回行っている「電気絶縁機能」のシミュレーション結果を、まず実験で検証することが必要です。次に実際の電気絶縁材料として用いるために、電気絶縁のみでなく、熱や機械的ストレスに対する耐力や、長期運転時の劣化特性を観測し、安全性や取扱性の面から、今回用いたジルコン酸鉛にとどまらず、より適した材料も見つけていく努力が必要と考えられます。

将来、電気工学をになう若い研究者への広報・啓蒙活動が大事

今後、パワーアカデミーに期待することをお教えください。

研究助成の公募は、研究面・専門教育における産学連携に非常に有効であり、今後も続けてほしいと願います。それとともに、若手人材育成の面での連携がいっそう重要になるのではないでしょうか。

今後は、将来電力分野・電気工学分野を先導していく若い研究者あるいはその前の世代(大学初等~高校生~中学生等)に対する様々な広報・啓蒙活動の重要性が増してくると思います。例えば、大学・高専等の教育機関が行っているサイエンスセミナーや理科教室といった活動に対するサポートを通じて、こういった活動に対するノウハウや経験、成果の共有がはかれるのではないかと考えています。

新居浜工業高専を例にとりますと、夏休み期間中に中学生に対して理科教室をやっています。その中では、放電実験なども行っており、少しでも電気の分野に興味をもってもらおうと取り組んでいます。実際に入学した人の半数以上は、こうした理科教室やセミナーを受けた人たちでした。即効性の高い活動ですので、ご検討よろしくお願いいたします。

8月30日(火)福井大学で行われた成果報告会での発表の様子


電気工学の未来