自然エネルギー型分散電源の大量導入に向けた、次世代電力網「セルグリッド」の構築。/大阪工業大学 木村 紀之 教授

2011年12月掲載

代表者 大阪工業大学 木村 紀之 教授
共同研究者 福井大学 田岡 久雄 准教授、名古屋工業大学 竹下 隆晴 教授、広島大学 餘利野 直人 教授、広島大学 佐々木 豊 助教、首都大学東京 安田 恵一郎 教授、大阪府立大学 石亀 篤司 教授

(注)所属等は2009年11月採択時。

大阪工業大学・木村教授を代表とする本プロジェクトは、パワーエレクトロニクス装置の開発を通じて、配電ネットワークレベルを自律分散的に制御する次世代電力システムの構築を目指しています。木村教授のグループは、この次世代電力システムを「セルグリッド」と命名。スマートグリッドやマイクログリッドとも違う電力網をご提案頂きました。

特別推進研究は、飛躍のチャンス

「パワーアカデミー研究助成」に応募したきっかけをお教え下さい。

以前から2008年から電気学会の委員会において、電力関係の研究者とパワーエレクトロニクス関係の研究者が集まり議論を行っていました。そのテーマの中に、自然エネルギーの利用とそれに伴う電力利用の効率化が含まれていました。

2009年に「パワーアカデミー研究助成」の初めての公募があり、この中の「特別推進研究」に採択されれば、委員会での議論を基にした電力供給について、新局面を探り、問題点を抽出し、シミュレーションモデル・プログラム・実験装置の構成などにより解決法を模索するなど、幅広く研究テーマとしてとらえ、新進の研究者に提供できると考えました。

また、特別推進研究のように助成金額が大きいプロジェクトは初めてで、飛躍のチャンスであり、日頃は研究分野が異なる、電力関係とパワーエレクトロニクス関係の研究者が一緒になって、ひとつの目標に取り組むことは大きな意義があると考え応募いたしました。

パワーエレクトロニクス技術とシステム協調機能が一体となる

ご研究内容をお教え下さい。

現在、エアコンをはじめとする電化製品は、インバータなどのパワーエレクトロニクス装置を組込み、きめ細やかな制御が可能となっています。このような制御方法の多くは、ユーザーサイドの快適性を基準として、省エネ運転を行うものです。一方で、光ケーブルの普及に伴い、需要家にインテリジェント・パワーメーター(多機能電力計)を設置して、電力系統側との協調制御を需要負荷側にも適用することが実現可能となっています。また、太陽電池(PV)の普及も今後拡大し、10年程度でプラグインハイブリッド車(PHV)や電気自動車(EV)の普及も現実的になっているため、家庭やオフィスにおいて、これらの装置をつなげ一体的に運用すれば、電力の需給制御の幅が大きく広がる可能性があります。

私たちは、このような需要家負荷を最小単位とした電力系統を「セルグリッド(Cell-Grid)」と命名しました。そして、需要家に「パワーマネジメント装置」と呼ばれる負荷調整装置を設置した場合を想定して、電力系統制御との協調を実現するための制御・解析手法の解決に取り組んでいます。

セルグリット(Cell-Grid)の概念図

全く新しい電力網”セルグリッド”の提唱

具体的にセルグリッドについて教えてください。

「セル(Cell)」は細胞の意味で、最小の単位として用いています。細胞が多数集まってヒトの身体を形作るように、セルグリッドも多数集まって、大きな電力系統を構築できると考えています。もちろん、実際は電力会社の系統に接続する必要があります。このとき、細胞が適切な機能を分担することで、ヒトの身体が健全に保たれるように、セルグリッドが電力会社の系統と協調して、全体の電力需給制御と系統安定化制御に寄与できるような機能を持つことを目指しています。

具体的には、「電力需給情報の伝達」、「セルグリッドの電力調整」、「配電系統の安定化制御」、「系統全体の効率的運用方法」に関する研究を先生毎に細かく分担して進めています。

各研究者の担当と進捗状況

名前(大学) 担当 結果
木村 紀之(大阪工業大学) パワーマネジメント装置の構築 インバータと制御装置を購入し、制御装置の設計に着手
田岡 久雄(福井大学) セルグリッド要素モデルの構築 太陽電池パネルとパワーコンディショナーの仕様を決定
竹下 隆晴(名古屋工業大学) ループバランスコントローラ(LBC)の構築 LBC用マトリクスコンバータの製作部品を購入、制御装置の設計に着手
餘利野 直(広島大学)
佐々木 豊(広島大学)
セルグリッドとして機能させるための協調制御機構および運用最適化のための需給制御マネージャの開発 系統協調制御機構および需給制御マネージャの機能を検証中
安田 恵一郎(首都大学東京) セルグリッドを含む負荷系統の階層型自律分散制御方式に関する基礎的検討 需要家のモデリングと需給シミュレーションモデルを検討中
石亀 篤司(大阪府立大学) 状態推定法および自律分散制御方式を用いたセルグリッド制御方式の構築 セルグリッドの自律分散的な系統電圧制御方式を検討中

(注)所属等は2009年11月採択時。

セルグリッド化の効果明らかになる

現在までの研究成果と今後の展開についてお教えください。

以下4つの研究成果と検討課題があります。これらは、新しい研究課題を抽出してきた結果です。

  1. 電力会社側から一定の時間間隔で系統の電力需給情報の提供が必要です。検討の結果、インターネット掲示板に類する伝達方法を提案します。今後は、適切な時間間隔、時間遅れの影響などを検討していきます。
  2. パワーマネジメント装置によるセルグリッドの電力調整により、負荷ピークが抑えられ、その結果、蓄電装置(電池など)の容量が低減でき、セルグリッド化の効果が明らかになりました。
  3. セルグリッドの個別応答が自律分散的に協調して、系統全体の状況を示すようなデータを提供し、これに合わせて各セルグリッドが応答する仕組みを検討しています。
  4. セルグリッドが電力応援・吸収能力を十分に発揮するには配電系統の電圧制御が必須です。効率的にこの制御を行うための新型ループ制御装置を開発し、実験室での基本動作確認を行いました。今後、様々な系統条件に対応した制御を開発していきます。

解決には、まだまだ時間がかかりそうですが、有意の方々にチャレンジして頂きたく思います。

若手の研究者が議論できる場をつくってほしい

今後、パワーアカデミーに期待することをお教えください。

電力エネルギーの重要性が改めて、認識される時代になりました。今後、多様な課題が具体的に調査・研究・開発される必要があります。そして、新しい価値観を生み出し、日本が世界に貢献できる、大きなチャンスでもあると思います。是非、この分野での研究推進をご援助頂き、国内外を問わず、特に若手の研究者が議論を深める機会を作って頂きたく存じます。

具体的には、「若手・夏の学校」といったイベントが良いと思います。私は、昔、核融合に関わったことがあり、"プラズマ夏の学校"というものに参加したことがありました。当時は核融合の黎明期で研究者も少なかったのですが、3日間ほど、核融合分野のトップの研究者に先生になって頂き、基本的なことから応用的な話まで講義が行われました。また、こうした合宿では、貴重な交流が生まれます。毎晩議論することによって、その学問の面白さや重要性をさらに認識することができます。ぜひ、パワーアカデミーでも同様の企画を検討して頂ければと思います。

8月30日(火)福井大学で行われた成果報告会での発表の様子


電気工学の未来