電気と磁石は切っても切れない関係にあります。その磁石の発展に化学は大きな貢献をしています。現在、最も強力な希土類磁石は、サマリウムやネオジムなどの希土類元素を組み込んで設計された金属間化合物。近年は有機化合物からなる有機磁石や、超電導磁石の研究が進められています。

電気と磁気の関係が発見されて、磁石が進化した

18世紀始め頃より、ボルタアンペールファラデーなどの活躍によって、磁気と電気の深い関係が見出されてきました。特にファラデーは、コイルの中で磁石を動かすと電流が発生するという「電磁誘導の法則」を発見。電気エネルギーの利用に必須となる機器(発電機、電動機や変圧器等) の原理を発見しました。

このような電気と磁気の研究が盛んになるにつれて、クローズアップされてきたのが、磁石の存在です。磁石の材料は磁性体と言いますが、19世紀の始め頃まで磁性体は天然の磁鉄鉱が主でした。しかし、電気と磁気の関係が解明されるに伴って、より強力な人工磁石が求められるようになりました。

日本刀づくりの技術から生まれたKS鋼

1917年に本多光太郎博士が発明した「KS鋼」は、従来材料を大きくしのぐ画期的な磁性体でした。日本刀などの刃物は、真っ赤に焼いてから水に漬けて急冷します。これを“焼き入れ”といいます。急冷すると鉄の結晶組織が変わり、刃物に向いた硬さが生まれるのです。本多博士はこの焼き入れ技術を取り入れることで、当時としては世界一強力な磁石鋼の開発に成功したのです。これまでの鋼鉄磁石に比べて、約3倍もの磁力となりました。

刃物の焼き入れ

先端技術を開拓、フェライト磁石と希土類磁石

KS鋼に続いて、大きなブレークスルーとなったのが、酸化鉄を主成分とする1930年に発見された「フェライト磁石」です。これも日本で発明された磁石で、現在でも、多くの通信機器や電気機器、モーターなどに用いられています。さらに1960~80年代にかけて、きわめて強力な磁気パワーをもつ新たな磁石が開発されました。これらはサマリウムやネオジムといった希土類元素を用いるため、「希土類磁石」と総称されています。希土類元素とは存在が希少な地球元素を意味するレアアース(rare earth)元素の訳語です。レアアースは半導体やセラミックスをはじめとする電子材料や特殊合金など、現代の先端技術に不可欠な物質となっています。

フェライト磁石 希土類磁石

最強のネオジム磁石、そして夢の超電導磁石、有機磁石へ

現在、世界一強力な磁石は、希土類元素であるネオジムを用いた「ネオジム磁石」。近年、ネオジム磁石は省エネタイプと呼ばれるエアコンや洗濯機のモーターほか、ハイブリッドカーや電気自動車の駆動モーターにも使われています。

最近のトピックスとして、もっとも注目されているのは永久に電気が流れ続ける「超電導磁石」でしょう。MRIリニアモーターカーにおいてすでに実現化が始まっています。
また、「有機磁石」の研究も進められています。有機磁石は分子設計によって、有機化合物そのものに磁石としての性質をもたせたものです。有機磁石は生体との相性がよいので、医療や介護などでの応用が考えられる新材料として期待が寄せられています。
元素の種類は限られていても、その組み合わせは限りがありません。いつの時代にも化学は物質の無限の可能性を切りひらく学問です。

ハイブリットカー駆動モータ 有機磁石の考え方

「化学」は「電気工学」の発展を支える

身の回りを化学の視点でとらえると、新鮮な発見があります。環境問題、エネルギー問題の解決など、化学が果たすべき役割はますます重要になっています。電気工学の発展をサポートするのも化学です。

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