2016年9月、パワーアカデミー事務局は、香川県丸亀市にある三菱電機株式会社の受配電システム製作所「中低圧直流配電システム実証棟」を訪問しました。2016年7月に稼働開始した中低圧直流配電システム実証棟は、三菱電機のスマート中低圧直流送電システム事業の主要拠点です。今後の再生可能エネルギーの普及やスマート社会実現のキーテクノロジーになると予想される直流配電システムについて、その最先端の実証現場をご紹介します。

電気のふたつの流れ「直流」と「交流」とは?

三菱電機の「中低圧直流配電システム実証棟」の紹介の前に、直流(DC:Direct Current)と交流(AC:Alternating current)についてご説明しましょう。

下図に示されるように直流は電流の向きと大きさが常に同じです。交流は電流の向きや大きさが短時間のうちに変化します。

電力会社から家庭に配られている電気は交流で、分かりやすく言えば、家庭のコンセントから流れる電気は交流の電気です(※1)。

一方、家庭で使う電気製品は、多くの機器が直流で動きます。テレビ、冷蔵庫、洗濯機、パソコンなど多くの電化製品は、内部で交流を直流に変換して使用しているのです。例えば、テレビは機器の中に交流を直流に変える電源装置があり、パソコンはAC/DCアダプターを使って交流から直流に変換して使用しています。また、乾電池やバッテリー(蓄電池)の電気も直流です。

(※1)周波数変換所や連系所では、直流送電が採用されている。詳細は、「電気の施設訪問レポートvol.8 北本連系設備」および「vol.17 南福光連系所」をご覧ください。

直流と交流の変換を減らして、省エネを実現する「直流配電システム」

東日本大震災以降、再生可能エネルギーの利用拡大が進んでいます。そんな中、直流配電システムが注目されはじめています。

震災以降、太陽光発電や風力発電など再生可能エネルギーの普及が進みましたが、これらは天気に大きく左右されるため、多くの場合、蓄電池と併用して使用されています。

実はこれら再生可能エネルギーも蓄電池も、直流で発電・蓄電されているのです。

ところが、配電システムは前述したように交流であるため、再生可能エネルギーや蓄電池を使用する場合、直流から交流へ変換しなければなりません。また電気機器も前述した通り、多くの機器が直流で動いているため、交流から直流へのさらなる変換が必要になります。これらは変換のたびに、電力損失が発生しており、効率が悪いのです。

そこで直流と交流の変換を減らして、消費電力を削減する直流配電システムを実現するため、三菱電機が建設したのが「中低圧直流配電システム実証棟」です。

(※2)配電用変電所から工場、ビル、各家庭までの過程を配電という。主に短距離での送電で6600ボルト以下に下げて配電する。詳細は身近な電気工学「電力系統と駅伝」をご覧ください。

産業の省エネルギー化とエコ化を進化させる、「直流配電システム」導入へ向けて

「中低圧直流配電システム実証棟」は、香川県丸亀市の受配電システム製作所に建設されています。受配電システム製作所は、日本だけでなく世界中に製品を提供している三菱電機の受配電設備のマザー工場です。

今回、建設された「中低圧直流配電システム実証棟」は、三菱電機のスマート中低圧直流配電システム事業の主拠点です。トータルブランドを「D-SMiree(ディースマイリー)」と言って、交流から直流、また、直流から交流への変換の回数を減らして供給することで系統全体の消費電力を削減できるシステムを提供します。加えて、電力需要に基づく蓄電池制御技術や、スマートグリッドの構築に関連した技術によって、データセンター・ビル・工場・駅といった商用・公共施設の用途にあわせた配電システムを提供します。これからの日本の産業の省エネルギー化とエコ化をさらに進化させる直流配電システム、それが「D-SMiree」です。

直流配電システム実証棟をご案内いただきました

それでは当日、ご案内いただいた「中低圧直流配電システム実証棟」の主な施設をご紹介しましょう。2016年7月に稼働開始したばかりの“実証棟”なので、未だ開発中の製品やシステムがありますが、これまでにない新しい産業システムをつくろうとしている、活気あふれる雰囲気が満ちていました。

蓄電システム

最初は屋外の蓄電システムをご案内頂きました。この中にバッテリーが納められています。バッテリーは、リチウムイオン電池で、私たちの身近なスマートフォンやノートPCにも使用されているものです。直流接続が簡単な蓄電池の活躍が広がるのは、直流配電システムの大きなポイントです。

再生可能エネルギー(太陽光発電・風力発電)

屋外にあるメインの太陽光発電は、定格85キロワットで出力しています。直流で発電するため、交流に変えることなく、昇圧して直流配電システムへ連系しており、従来より効率が良いです。一方、風力発電は定格5キロワットの発電出力です。実は一般的に風力発電は、出力自体は交流ですが、風速が安定しないため、その出力である電圧や周波数を安定させるため、一回直流に変えています。それをさらに電力系統へ接続させるため、交流に変えるという方式をとっています。この二回にわたる変換が、一回で済むため、こちらも効率が良くなります。

建材一体型の太陽光パネル

「中低圧直流配電システム実証棟」の建物の壁面に、格子状で並んだ、とてもオシャレな窓。実はこれは太陽光パネルなのです。単結晶のシリコンセル(2048セル)を高透過強化ガラスに内蔵しています。デザイン性もさることながら、剥離や樹脂の割れが少ない中間膜(EVA)を採用するなど、非常に耐久性が良いのも特長です。

外観からの太陽。格子状に並んだセルが、光と影の独特な空間を演出します。

建物の中より、太陽光パネルの裏を撮影しました。一つひとつのセルの様子が分かります。

電機機器

換気扇、サイネージ、セキュリティー、4Kテレビ、無人案内機、電子白板、PHS端末、サーバー照明、写真プリンタ、DCコンセント・・・「中低圧直流配電システム実証棟」にあるほとんどの電気機器が、直流で動作します。これらは通常の電気機器とは違って、直流で直接、動作するように本実証棟用に開発されたものです。総合電機メーカー・三菱電機ならではの技術力と言えるでしょう。写真は、実証棟に入ってすぐ私たちを迎えてくれた、無人案内機です。

直流給電システム(MELUPS DECO)

実証棟の2階は、電気室兼サーバー室となっており、そこに設置されているのが、キーテクロノジーといえる「直流配電システム MELUPS DECO」です。商用からの給電を直流の380ボルト(入力は交流200ボルト)に変換します。これにより、システム全体の電力損失低減をはかって省エネルギーを実現、システム変換効率は97%を達成しています。ちなみに通常こうした電力機器で黒色はめずらしいのですが、元々はデータセンター用に開発されたシステムであるため、サーバーラックの標準色の黒にあわせたそうです。また、デザイン性も重視して採用されました。

回生モーター

直流配電システムの横に展示されているのが回生モータで、鉄道やクレーンがブレーキをかける際に発生する回生エネルギー(※3)を模擬するためのモータです。回収した回生エネルギーは実証棟内の直流負荷へ給電され、エネルギーの有効活用を実現しています。

(※3)回生エネルギーについて詳細は「身近な電気工学 モーターと回生ブレーキ」をご覧ください。

マイグレーション装置

直流配電システムで380ボルトに変換された電気を、さらに低圧の24ボルト等に変換して、換気扇、サイネージ、セキュリティー、4Kテレビ、無人案内機などで使えるようにします。それを行うのがマイグレーション装置。通常は、分電盤や直流配電システム横のラックに納められていますが、こちらがそのサンプルです。

エネルギーマネジメントシステム

ビル全体の使用状況を見ながら、エネルギーを一元管理できるシステムを導入しています。建物全体の温度や照明の照度などすべてのエネルギーを見える化して、スイッチのオン・オフなどもできるシステムです。見学時にはまだ調整中でしたが、天気予報をもとに再生可能エネルギーの発電量やビル内の負荷予測を行い、より高度なエネルギーマネジメントシステムへと進化させていきます(※4)。

(※4)エネルギーマネジメントシステム(HEMSおよびBEMS)についての詳細は「身近な電気工学 バレーも電力もIT管理」をご覧ください。

直流配電を体験しました

こちらは、直流380ボルトのコンセントを実体験できるデモコーナーです。コンセントを差すと、380ボルトから5ボルトに変換する装置(USBアダプタ)が作動して扇風機が回るというデモです。私たちも実際にやらせていただきました。

編集後記

ご案内頂いた三菱電機の中野慎太郎さん(写真左)と、福野研一さん(右)です。

当日はあいにくの曇天でしたが、できたばかりの「中低圧直流配電システム実証棟」のフレッシュさと、ご紹介頂いた三菱電機の社員の皆様の熱意で、すがすがしい気分で取材を終えることができました。直流配電システムを実現させて、より日本の産業の省エネルギー化とエコ化を推進したい。そんな使命感を三菱電機の皆様から感じました。今後もパワーアカデミー事務局は、電気技術の先端テクノロジーと言える「直流配電システム」に注目してまいります。

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