2014年7月、パワーアカデミー事務局は東京電力の常陸那珂(ひたちなか)火力発電所(茨城県那珂郡東海村)を訪問しました。緑豊かな自然と太平洋の大海原が広がる常陸那珂港北ふ頭に位置する常陸那珂火力発電所は、石炭を燃料とする火力発電所。2003年稼働の1号機、2013年稼働の2号機ともに国内最大規模の100万kWの発電力を誇ります。そのスケールの大きさはもちろんのこと、何よりも環境に配慮した最先端の技術の数々が私たちを驚かせてくれました。環境に配慮した様々なポイントをご紹介します。

石炭のマイナス面を抑え、プラスを引き出す最新技術を集結

「石炭」と聞いて、皆さんは何を連想されるでしょうか。煙をモクモクと吐き出して走る蒸気機関車をイメージされる方も多いかもしれません。最近ではあのPM2.5の発生原因では、と疑われることもあります。このように石炭には、「空気を汚す」「環境に悪影響を与える」といったマイナスのイメージがあります。

一方で、エネルギー源の乏しい我が国ではその多くを外国からの輸入に頼っています。その大きな割合を占めていたのが石油でしたが、2度のオイルショック(1973年、1979年)により、石油に過度に依存することは電気の安定供給に大きな不安をもたらすことがわかりました。

その点、石炭は産出地が世界中に分布し、埋蔵量が豊富で価格も比較的安いなど、安定供給の面で大きなメリットを持っています。そのメリットを十分に引き出すためにも、必要なのが石炭ならではのマイナス面を抑えること。つまり環境保全対策が重要になります。

こうした課題に応えているのが常陸那珂火力発電所。大量の電気を安定的に供給するベース電源として、重要な使命を果たしています。

燃料受入から廃棄物処理までワンストップで行う

茨城県ひたちなか市と東海村にまたがる広大な開発地が「ひたちなか地区」。その中核施設の一つである常陸那珂港に向かって車を走らせると、雄大な太平洋を背に、高くそびえる塔と、青・白のストライプが印象的な建物が見えてきます。常陸那珂火力発電所です。

常陸那珂火力発電所の約1kmほど南には、海にせり出して四角く囲われたエリアがあります。ここは「ひたちなか地区」の埋め立て工事現場で、その埋め立てには発電所から排出された石炭灰が利用されています。燃料受入から廃棄物処理までワンストップで一貫して行うことが常陸那珂火力発電所の最大の特徴です。

写真の右上に、石炭を陸揚げする揚炭バースと貯炭場が見えます。灰埋立地をはさんで、青・白のストライプのタービン建屋やボイラの防音壁、煙突などが見えます。スケールの大きさに圧倒されます。

超々臨界圧方式を採用して、世界最高水準の発電効率を実現

常陸那珂火力発電所の1号機、2号機の発電出力はそれぞれ100万kW。契約30アンペアの家庭に換算すると、約66万軒のご家庭に電気を供給できる規模です。

発電の仕組みは、次の通りです。

  1. 燃料となる石炭は海外から船で運ばれ、陸揚げされる
  2. 陸揚げされた石炭は、貯炭場で保管される
  3. 貯炭場の石炭はベルトコンベアでバンカーまで運ばれる
  4. 石炭は微粉炭機で砕かれて細かな粉末(微粉炭)にされる
  5. 微粉炭はボイラで燃やされる
  6. 微粉炭の燃焼で水が高温高圧の蒸気となる
  7. その蒸気の力でタービンが回転して発電する

ご存知のように水は加熱されて100℃になると蒸気になりますが、常陸那珂火力発電所ではそれをさらに極限まで上昇させる超々臨界圧という方法を用いることで非常に高い発電効率(45%)を実現しています。これは世界最高水準の発電効率です。
そして、こうした優れた発電能力をフルに発揮する上で重要となるのが、環境保全への様々な工夫なのです。
それでは発電までの流れに沿って各施設を見ながら、環境保全の工夫について詳しく確認していきましょう。

東京ドーム4~5杯分の石炭を、無駄なく陸揚げする

石炭の陸揚げを行うのが、写真奥に見える連続式揚炭機(アンローダ)。全長80m、高さ45mに及びます。

オーストラリアなど海外の炭鉱で掘り出された石炭は船で運ばれ、常陸那珂火力発電所の揚炭バースで陸揚げされます。その量は、1号機・2号機合わせて年間約460万トン。東京ドーム4~5杯分のボリュームです。
陸揚げで活躍するのは揚炭機(アンローダ)という巨大な機械。ちょうど鳥がえさ箱に頭を突っ込むような形で、アンローダの先端を船に降ろし、石炭を掻き取ります。常陸那珂港は外洋に面していますから、風や波の影響で船が大きく揺れることも珍しくありません。そのため慎重な作業が必要です。一見すると非常にダイナミックですが、作業はとてもデリケートというわけです。
作業も終わりに近づくと船底に少量の石炭が残ります。もちろん少しも無駄にしません。ブルドーザーを持ち込んで、丁寧にすくっていきます。その様子を見た外国船の船長が「日本人はとてもきれいに食べ尽くす」と感心していたとか。

環境に細やかな配慮を行っている、石炭を保管する貯炭場

陸揚げされた石炭は、広大な貯炭場に溜め置かれます。貯炭場には最大で80万トン、およそ45日分の石炭を溜めておくことができます。
石炭は産出された炭鉱ごとに積まれていますが、よく見るとそれぞれの山の色が微妙に違います。実はどれも同じように見える石炭も、炭鉱によって性質がだいぶ違うとのこと。若い石炭は亜瀝青炭(あれきせいたん)と呼ばれ、熱量が低いことが特徴です。この広大な貯炭場は高さ18メートル遮風フェンスで覆われ、海からの強風が吹いても粉じんが飛ばないようになっています。もちろん台風でも心配はありません。また、雨で汚れた水が流れ出ないよう、周囲は堰どめされており、排水処理後、貯炭場の散水用として再利用しています。こうした細かな配慮が、環境保全につながっているのです。
ちなみに若い石炭ほど、空気と反応して性質が変わっていくのも速いとか。その性質はまるで生鮮品のようで、なるべく新鮮なうちに使うことが大切だそうです。

最大で80万トン、約45日分の石炭が貯められる、貯炭場の風景です。

貯炭場は、高さ18メートルの遮風フェンスで覆われ、海からの強風や台風が来ても粉じんが飛びません。

騒音を抑えて石炭を運ぶ、空気式のベルトコンベア

最新式の石炭輸送設備である空気式のベルトコンベアで、石炭をボイラまで運びます。

石炭は貯炭場からベルトコンベアでボイラまで運ばれます。
このベルトコンベアは、なんと空気式。まるでエアーホッケーのようにベルトの下に空気を送り込み、石炭を載せたベルトを空気の力で浮かせて運んでいます。そのため騒音も低く抑えることができています。もちろん周囲はすっぽりと覆われており、粉じんが飛散することもありません。

微粉炭機で石炭を砕き、ボイラで燃焼、蒸気でタービンを回す

ベルトコンベアで運ばれた石炭は、ボイラで燃やされる前に、微粉炭機で細かく粉状に砕かれます。この微粉炭機は、ちょうどコーヒーのミルと同じ働きをするものです。
小麦粉よりも細かい粉状になった石炭は、ボイラに投入され、燃やされます。その熱で水が高温高圧の蒸気になり、その力でタービンを回転させて発電します。
タービンに流れ込むのは600℃・245気圧の蒸気。これほど高温高圧の蒸気にも耐えられる材料が開発されたことも、発電効率の向上につながっています。
なお、蒸気となった水は海水を利用することで冷却され、再利用されます。もちろん海水の温度に大きな影響を与えないよう、水温は常に監視されています。

石炭を小麦粉よりも細かい粉状にする、微粉炭機(ミル)です。

ボイラでつくられた高温高圧の蒸気が、この蒸気タービンへ送りこまれ回転して電気をつくります。

環境保全に威力を発揮する総合排煙処理装置

石炭が屋外にある間は粉じんの飛散防止のために遮風フェンスで貯炭場を覆ったりベルトコンベアを防じんカバーで覆ったりといった配慮がなされていますが、燃焼の段階となるとさらなる環境保全対策が必要です。というのも、石炭を燃やすことで発生する排ガスの中には、窒素酸化物(NOx)、ばいじん、硫黄酸化物(SOx)などの大気汚染物質が含まれているからです。これらを除去するために常陸那珂火力発電所では、最新の総合排煙処理装置を設けています。国内最大規模の発電力と共にこの総合排煙処理装置も、常陸那珂火力発電所が世界に誇りとするポイントです。

窒素酸化物を除去する、排煙脱硝装置

窒素酸化物を含む排ガスにアンモニアを吹き付け、触媒層で化学反応を起こして無害な窒素と水蒸気に変えます。

硫黄酸化物を除去する、排煙脱硫装置

硫黄酸化物を含む排ガスに石灰石と水を混ぜた石灰石スラリーをシャワーのように噴射し、硫黄酸化物を石こうとして取り出します。この石こうは建材等に利用されています。

ばいじんを除去する、電気式集じん装置

下敷きをこすって静電気を起こし細かなチリを吸い集めるのと同じ原理で、集じんを行って回収します。ここで回収された石炭灰は、冒頭でご紹介した常陸那珂港の埋め立て材に利用されています。

これら総合排煙処理装置と発電装置は、24時間稼働の中央操作室で制御・監視されています。

さらなるCO2排出削減のために、バイオマス設備を設置

常陸那珂火力発電所でCO2排出削減のために設置されたのが、バイオマス設備です。石炭に木質のペレットを混ぜてボイラで燃焼させます。これによって常陸那珂火力発電所の環境保全策がさらに一歩進むことが期待されています。

編集後記

石炭火力の発電所と聞くと、蒸気機関車のイメージからの連想で、つい大きな騒音や汚れた空気を想起してしまいます。

しかし、実際に訪れてみるとタービンなどの一部設備を除けばとても静かで、ここが発電所ということを忘れそうなほど。声を張り上げることもなく、普通の調子で会話ができました。石炭の粉じんが舞うようなこともまったくありませんでした。

1997年には、東京電力と茨城県および周辺自治体の間で、ばい煙の排出などについて厳しい基準を定めた公害防止協定を締結しています。
何よりも豊かな緑に包まれ、青い太平洋を背にしたこの立地を見ていると、常陸那珂火力発電所が自然の中にすっかり溶け込んでいるとこが、直感的に納得できます。もちろんそれは決して簡単なことではありません。中で働く社員の皆さんをはじめ、関係者全員の努力があってこその環境保全なのです。 「優雅な白鳥も水面下では必死に水をこいでいます。常陸那珂火力発電所でも、美しい地球環境を保全するために全員が大きな努力を続けています」との言葉に、石炭火力発電を通じてベース電源を支えている誇りを感じました。

電気工学キーワード

  • 電力系統
  • 電気機器

バックナンバー一覧

電気の施設訪問レポート vol.202016年11月掲載

三菱電機「中低圧直流配電システム実証棟」を訪問しました
2016年9月、パワーアカデミー事務局は、香川県丸亀市にある三菱電機株式会社の受配電システム製作所「中低圧直流配電システム実証棟」を訪問しました。…>>続きを読む

電気の施設訪問レポート vol.192016年7月掲載

「柏の葉スマートシティ」を訪問しました
2016年3月、パワーアカデミー事務局は「柏の葉スマートシティ」を訪問しました。柏の葉スマートシティは、内閣府の地域活性化総合特区に指定されており、国家的事業として取り組んでいる、…>>続きを読む

電気の施設訪問レポート vol.182015年10月掲載

東北電力「新仙台火力発電所」を訪問しました
2015年10月、パワーアカデミー事務局は東北電力の新仙台火力発電所(仙台市宮城野区)を訪問しました。仙台市の一番東にある仙台港に位置する新仙台火力発電所は、…>>続きを読む

電気の施設訪問レポート vol.172015年1月掲載

中部電力「南福光連系所」を訪問しました
2014年11月、パワーアカデミー事務局は中部電力と北陸電力の電力系統を連系している南福光連系所(富山県南砺市※とやまけんなんとし)を訪問しました。南福光連系所…>>続きを読む

電気の施設訪問レポート vol.162014年9月掲載

東京電力「常陸那珂火力発電所」を訪問しました
2014年7月、パワーアカデミー事務局は東京電力の常陸那珂(ひたちなか)火力発電所(茨城県那珂郡東海村)を訪問しました。緑豊かな自然と太平洋の大海原が広がる常…>>続きを読む

電気の施設訪問レポート vol.152014年5月掲載

「沖縄やんばる海水揚水発電所」を訪問しました
2014年2月、パワーアカデミー事務局は、沖縄県北部の国頭村(くにがみそん)にある、J-POWER(電源開発株式会社)の「沖縄やんばる海水揚水発電所」を訪問しました…>>続きを読む

電気の施設訪問レポート vol.142013年11月掲載

「神之池バイオマス発電所」を訪問しました
2013年9月、パワーアカデミー事務局は、茨城県神栖市にある、国内最大級の木質バイオマス専焼発電所「神之池バイオマス発電所」を訪問しました。これは、9月18日(水)に行われた…>>続きを読む

電気の施設訪問レポート vol.132013年10月掲載

「浮島太陽光発電所」を訪問しました
2013年8月、パワーアカデミー事務局は、神奈川県川崎市にある「浮島太陽光発電所」を訪問しました。浮島太陽光発電所は、川崎市と東京電力株式会社の共同事業として、川崎市の臨海部…>>続きを読む

電気の施設訪問レポート vol.122013年7月掲載

九州電力「黒川第一発電所」を訪問しました
2013年4月、パワーアカデミー事務局は、熊本県南阿蘇村にある九州電力の黒川第一発電所を訪問しました。黒川第一発電所は、約100年前の大正3年(1914)につくられた歴史ある水力発電所で…>>続きを読む

電気の施設訪問レポート vol.112013年2月掲載

新出雲ウインドファームを訪問しました
2012年11月、パワーアカデミー事務局は、島根県出雲市にある株式会社新出雲ウインドファームを訪問しました。同社は、2009年4月に営業運転を開始した、日本最大規模の…>>続きを読む

電気の施設訪問レポート vol.102012年10月掲載

宮崎ウッドペレットを訪問しました
2012年8月、パワーアカデミー事務局は、宮崎県小林市にある宮崎ウッドペレット株式会社を訪問しました。宮崎ウッドペレット株式会社は、未利用となっている国内林地残材…>>続きを読む

電気の施設訪問レポート vol.92012年9月掲載

九州電力「小丸川発電所」を訪問しました
2012年8月、パワーアカデミー事務局は、宮崎県児湯郡木城町にある九州電力の小丸川発電所を訪問しました。小丸川発電所は、九州で最大規模の発電出力を誇る揚水式発電所。…>>続きを読む

電気の施設訪問レポート vol.82012年5月掲載

電源開発「北本連系設備」を訪問しました。
2011年11月、パワーアカデミー事務局は、北海道・本州間電力連系設備(北本連系設備)の函館交直変換所を訪問しました。北本連系設備は、日本初の高電圧直流送電線という技術で、…>>続きを読む

電気の施設訪問レポート vol.72012年4月掲載

東北電力「上の岱地熱発電所」を訪問しました
2011年11月末、パワーアカデミー事務局は、秋田県湯沢市にある東北電力・上の岱地熱発電所を訪問しました。本…>>続きを読む

電気の施設訪問レポート vol.62012年4月掲載

関西電力「堺港発電所」と「PR館」を訪問しました
2011年10月、パワーアカデミー事務局は、大阪府堺市にある関西電力 堺港発電所と堺太陽光発電所を訪問しました。堺市の臨海部に位…>>続きを読む

電気の施設訪問レポート vol.52010年9月掲載

四国電力「伊方ビジターズハウス」を訪問しました
2010年9月、パワーアカデミー事務局は、愛媛県西宇和郡にある「伊方ビジターズハウス」を訪問しました。伊方ビジターズハウスは、四国の約4割の電力をまかなう伊方発電所に隣接するPR施設です。施… >>続きを読む

電気の施設訪問レポート vol.42009年12月掲載

中国電力「水島発電所」を見学しました
2009年12月、パワーアカデミー事務局は、岡山県倉敷市にある、中国電力の水島発電所を訪れました。水島発電所は、水島コンビナートの電力をまかなうため、1961年に運転を開始した火力発電所です。… >>続きを読む

電気の施設訪問レポート vol.32009年9月掲載

中部電力PR展示施設「でんきの科学館」を訪問しました
2009年9月、パワーアカデミー事務局は、愛知県名古屋市にある「でんきの科学館」を訪れました。でんきの科学館は、見て、触れて、体験しながら電気の世界を発見できる参加・体験型の科学館。さま… >>続きを読む

電気の施設訪問レポート vol.22009年11月掲載

東北電力「三居沢電気百年館」を訪問しました
2009年11月、パワーアカデミー事務局は、仙台市にある「三居沢電気百年館」を訪れました。三居沢電気百年館は、東北の電気誕生から百年目を記念して、1988年に建てられたものです。主に東… >>続きを読む

電気の施設訪問レポート vol.12009年8月掲載

関西電力「エル・シティ館」を訪問しました
2009年8月、パワーアカデミー事務局は、大阪府にある「エル・シティ館」を訪れました。エル・シティ館は、関西電力南港発電所のエル・シティ・ナンコウ内にあるPR施設。子供から大人ま… >>続きを読む

すべて表示する

5件だけ表示


電気工学を知る