「神之池バイオマス発電所」を訪問しました

2013年11月1日掲載

2013年9月、パワーアカデミー事務局は、茨城県神栖市にある、国内最大級の木質バイオマス専焼発電所「神之池バイオマス発電所」を訪問しました。これは、9月18日(水)に行われた第2回GPAN(パワーアカデミー学生交流会)の設備見学会に同行して行ったものです。本レポートでは、バイオマス発電の仕組みや特徴、そして神之池バイオマス発電所をご紹介します。

バイオマス発電とは

バイオマスとは、太陽エネルギーを使って空気中の二酸化炭素(CO2)を有機物という化学エネルギーに変換して体内に蓄えた(この働きを光合成といいます)生物資源の総称です。バイオマス発電では、これらの生物資源を「直接燃焼」したり「ガス化」するなどして発電します。「直接燃焼」の場合は、文字通りバイオマスを燃料として燃やすことにより水を熱し、出てきた水蒸気でタービンを回して発電します。

※エネルギー白書2013【第213-2-17】より

バイオマス発電の意義と日本の現状

カーボンニュートラルのイメージ図

バイオマス発電は、太陽光、風力、地熱とならぶ、今後の普及が大きく期待される再生可能エネルギーです。バイオマスを燃焼することで排出される二酸化炭素(CO2)は、植物が光合成により吸収してきたCO2であるため、CO2の排出と吸収はプラスマイナスゼロになると考えられています。つまり燃料としてバイオマスを利用しても、結果的に大気中のCO2増加にはつながらないというわけです。このような考え方をカーボンニュートラルと言い、バイオマス発電の大きな特徴です。
日本のバイオマス発電の普及の現状ですが、2011年に利用されたバイオマスエネルギー(廃棄物エネルギーを含む)は原油に換算すると1148万klで、一次エネルギー国内供給量54,615万klに占める割合は2.1%(※1)となっています。今後のさらなる普及・発展が望まれています。

(※1)エネルギー白書2013より。詳しくはエネルギー白書HPをご覧ください。

神之池バイオマス発電所とは

発電所内から見た、中国木材・鹿島工場となります。

神之池バイオマス発電所は、神之池バイオエネルギー株式会社が運営するバイオマス発電所です。中国木材株式会社並びに三菱商事株式会社の共同出資による発電事業会社で、"電気"と"蒸気"を隣接する中国木材鹿島工場および東京電力へ供給を行っています。タービン発電機出力が2万1000キロワット、ボイラーの蒸発能力最大毎時106トンを有する、国内最大級のバイオマス燃料(廃棄物系バイオマス)で稼働する発電所です。
神之池バイオマス発電所の大きな特徴として、隣接する中国木材・鹿島工場から木質バイオマス燃料が、全量供給されていることです。そのため、安定した燃料の確保はもちろんですが、燃料の運搬費(化石燃料)もほとんど必要とせず、ここでもCO2削減に貢献しています。

バイオマス発電の流れ

神之池バイオマス発電所の主要設備をご案内いただきました。発電の流れにそってご紹介します。

中国木材(株)鹿島工場

中国木材(株)鹿島工場の住宅用構造材の保管倉庫です。バイオマス燃料は、この住宅用構造材を生産する過程で発生します。発生した燃料を、同じ敷地内にある神之池バイオマス発電所に供給しています。

バイオマス燃料

燃料は、「生オガ粉」「乾燥オガ」「パーク(樹皮)」の3種類です。神之池バイオマス発電所は、これら3種類の燃料を3系統からボイラーに投入して発電エネルギーを得ています。複数の供給ラインにより、安定稼働を確保する狙いです。

ボイラー燃焼

ボイラーとは、燃料を燃やした火力で水を加熱し水蒸気を作る設備です。神之池バイオマス発電所では、発電所屋上から、ボイラー内の燃焼室の様子を見ることができ、燃料である木材の燃える様子が分かります(写真)。このボイラーは、木質燃料専焼ボイラーとしては日本最大級の設備規模となります。

発電所

バイオマス発電は、水を熱して水蒸気をつくり、その蒸気の持つエネルギーを回転力に変換し、タービンを回すことで発電を行います。仕組み自体は火力発電と同じです。神之池バイオマス発電所のタービンは、ボイラーで発生させた蒸気の圧力により、1分間に7100回の高速で回転します。また、発電機の最大出力は2万1000キロワット。これは、一般家庭の消費電力に換算すると約4万3500世帯分の電気を発生させることができます。

蒸気の販売

神之池バイオマス発電所は、電力以外にも "蒸気"を近隣工場に販売しています。蒸気の販売では、販売先の会社まで直接パイプラインをつないでいます。また、中国木材の木材乾燥設備にも蒸気を送っています。写真は、中国木材の木材乾燥炉。神之池バイオマス発電所から送られた蒸気で、木材を乾燥しています。

中央電力制御室

24時間365日、発電機の運転・監視を行うのが、中央電力制御室。発電所の中枢と言えます。ボイラーの燃焼状況も常に監視を行っています。手前の見学者はGPAN(学生交流会)に参加した学生たちです。

編集後記

大切な森林資源を余すところなく使用するため、製材するときに出てくるオガ粉や端材を使って発電を行っている、神之池バイオマス発電所。改めて、バイオマス発電の意義や重要性を考えさせられました。また見学の際は、隣接する中国木材(株)の木材製品の生産ラインもご案内いただき、その巨大さに圧倒されました。今後もパワーアカデミーは、さらなる発展を遂げていくであろう、バイオマス発電に注目してまいります。

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