九州電力・小丸川発電所を訪問しました

2012年9月1日掲載

2012年8月、パワーアカデミー事務局は、宮崎県児湯郡木城町にある九州電力の小丸川発電所を訪問しました。小丸川発電所は、九州で最大規模の発電出力を誇る揚水式発電所。本レポートでは、小丸川発電所の仕組みや特徴、地下発電所の様子、そして小丸川発電所の展示館"ピノッQパーク"をご紹介します。

"巨大な蓄電池"揚水式発電所とは

小丸川発電所は、純揚水式発電所(※)です。まずは、揚水式発電の仕組みを簡単にご紹介しましょう。もっとも電気を必要とする昼間は、上部ダムに貯めている水を地下発電所に流して、その力で水車を回転させて発電を行います。一方、電気があまり使われない夜間は、昼間に発電で使用した水(下部ダムに貯まった水)を、発電所の水車を逆回転させてポンプとして上部ダムにくみあげ、次の発電に備えます。大量の電気をそのまま貯めておくのは難しいので、水という形(位置エネルギー)に変えて電気を貯めておき、発電しているわけです。揚水式発電所は、"巨大な蓄電池"とも称されています。

(※)揚水発電所は、上池に河川から自然流入量があって揚水分と自然流入量分をあわせて発電する「混合揚水式」と、上池に自然流入量が無く揚水分のみで発電する「純揚水式」があります。

揚水式発電の仕組み

細かな電力調整が行える"可変速揚水発電"

小丸川発電所の大きな特徴は、揚水式発電所の中でも「可変速揚水」ができることです。可変速揚水は、発電電動機内のポンプ水車の回転速度を変化させることができるので、電力系統の周波数を調整することが可能です(周波数調整とは瞬時の需給調整のこと)。そのため、揚水運転時でも系統の状況に合わせて、きめ細やかな周波数調整を行うことができるのです。

特に、小丸川発電所のポンプ水車は、毎分600回転という世界でも屈指のスピードのポンプ水車となっています。

また、発電電動機の運転が可変速範囲内の任意の回転速度で行えるため、発電の起動指令からわずか2分30秒で最大出力に到達します。一般の水力発電所が約5分程度要することと比較すると、大幅な時間短縮を実現しました。

一般的に揚水発電は、発電電動機を動かしたり止めたりすることが短時間で可能なため、他の発電所や送電線などの故障で電気が足りないときに緊急に発電するという大きな役割があります。

世界で初めてポンプ水車の回転速度毎分600回転を採用

毎分600回転のスピードを誇る、小丸川発電所の「ポンプ水車」。

毎分600回転のスピードを誇る、小丸川発電所の「ポンプ水車」。

小丸川発電所は、世界で初めて、30万キロワット級ポンプ水車の回転速度を、製作限界である毎分600回転としました。

これにより、ポンプ水車、発電電動機が小型、軽量化され、地下発電所建屋の掘削量の削減、天井クレーンの最大吊り荷重の低減等大幅なコスト低減が出来ました。

小丸川発電所は、九州で最大級の揚水式発電所です

小丸川発電所の発電機は、2007年7月に1台目の4号機が運転を開始しました。そして2011年7月に最終号機である2号機の営業運転が開始。全4台(最大出力120万キロワット:30万キロワット×4台)での発電が可能となり、九州で最大級の揚水式発電所となりました。

小丸川発電所の下部ダムと上部ダムの間は約2.8キロメートルの水路で繋がれており、高低差は約650メートル。その途中に地下発電所があります。それでは主な設備をご紹介しましょう。

上部ダム(大瀬内ダム)

標高約800メートルの場所に、長さ約166メートル、高さ約65.5メートルの上部ダムをつくり、水を貯める「上部調整池」としています。約620万立方メートルの水を貯めることができます。福岡ドームの約3.2杯分です!

上部ダム(大瀬内ダム)

下部ダム(石河内ダム)

小丸川の本流に、長さ約185メートル、高さ約47.5メートルの下部ダムをつくり、水を貯める「下部調整池」としています。下部ダムは、小丸川の中流部にあり、大雨のときには流れ込む水の量も多くなるため、国内で最大規模の放水ゲートが四門あります。

下部ダム(石河内ダム)

地下発電所

地下発電所は地表から約400メートル下にあります。地下発電所は上部ダムと下部ダムのほぼ中間に位置し、硬い花崗閃緑岩(かこうせんりょくがん)という岩の中に空洞を堀って建設されています。この空洞は、高さ48メートル、幅24メートル、長さ188メートルに及ぶ巨大なもので、約2年の歳月をかけて完成しました。地下発電所内には、出力30万キロワットの発電電動機が4台あり、発電や揚水を行います。

また地下発電所の中には、展示室「ピノッQ技術館」が設置されています。発電電動機を一望できるテラスや、発電所の概要・歴史、使用技術などが、詳細なパネルと展示物で分かりやすく説明されています。

約2キロメートルのトンネルを通って、クルマで地下発電所へ向かいます。

①約2キロメートルのトンネルを通って、クルマで地下発電所へ向かいます。

②4台の発電電動機が一望できる展示室「ピノッQ技術館」の入り口です。

③「ピノッQ技術館」のテラスより発電電動機を見ることができます。手前が1号機、奥にあるのが4号機です。

④「ピノッQ技術館」内に設置されているライブ映像。発電電動機の動きを見ることができます。

⑤小丸川発電所の全景が縮尺された模型です。

⑥小丸川発電所の概要・歴史、使用技術などが詳細なパネルと展示物で理解できます。

自然環境に配慮した様々な取り組み

絶滅危惧種の"クマタカ"です。

小丸川は全長約80キロメートルの一級河川です。下流部では田園地帯に水の恵を与え、終着地点の太平洋に注ぎ込みます。小丸川発電所は工事を進めるにあたって、地域環境との共生を基本理念として、自然環境に配慮した様々な取り組みを行いました。

例えば、工事区域周辺で確認された絶滅危惧種の"クマタカ"にできるだけ影響を与えないよう、繁殖期の工事休止の対策などを実施しています。さらに工事で発生した泥は、脱水処理したあとにセメントを加え、「ピノッQパーク」の建設の際にリサイクルしました。

この泥のリサイクルは、平成14年度に『リデュース・リユース・リサイクル推進協議会会長賞』を受賞しました。また平成18年度には、大規模揚水発電プロジェクトにおける生物多様性と環境負荷低減に配慮した取り組みで『土木学会賞・環境賞』を受賞しました。

ピノッQパーク

「ピノッQパーク」は、小丸川発電所の仕組みや役割などを"楽しく・わかりやすく"学べる展示館。鳥やモグラと楽しく、地下発電所やダムを探索する「ターゲットスコープ」や、映像と模型で揚水発電の仕組みや役割を学べる「揚水発電パノラマ劇場」など子供から大人まで楽しめる展示物がいっぱいです。

小丸川発電所展示館「ピノッQパーク」については、平成26年3月9日(日曜日)をもちまして閉館しました。

編集後記

宮崎市内から車で約1時間10分、とても険しい渓谷に"小丸川発電所"はありました。特に上部ダムは、小丸川の支流大瀬内谷川の上流部にあり、気軽に行ける場所ではありませんが、東日本震災でも大きな注目を集めた「揚水発電所」をぜひ一度ご覧いただければと思いました。

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