
住友電気工業株式会社は、光ファイバー、電線、ケーブルなどを製造する非鉄金属の総合メーカーです。電気工学の最先端技術「超電導」にもいち早く取り組み、2006年にはアメリカ・ニューヨーク州で、世界初の長尺の超電導ケーブル線路を実現しました。今回の社会人インタビューは、超電導ケーブルの開発・研究に取り組むエンジニア・西村さんに話を伺いました。
プロフィール:
2004年 東京大学工学部電気工学科卒業※
2008年 東京大学大学院 工学系研究科 電気工学専攻 修了
2008年4月 住友電気工業株式会社入社
※現・東京大学工学部 電子情報工学科・電気電子工学科 日高・熊田研究室
※2009年9月現在。インタビュー中の敬称は略させて頂きました
■学園祭で雷を起こす。電気って面白い!

まず西村さんが、大学受験のとき、電気工学を志望された理由を教えて下さい。
西村崇(以下、西村):実は私は、正直なところ、工学部へ入ったものの何を学ぼうかというのは、入学した時点ではあまり決めていなかったのです(苦笑)。
そうですか。では、いつ決めたのですか。
西村:東京大学工学部は、学部の2年の終わりに専門教科へ振り分けられるのです。その時に電気工学を専攻しました。電気を選んだ理由は、ありきたりですが、やっぱり日常生活で欠かせないイメージがあったからですね。それと、ちょっと恥ずかしい話なのですが、大学に入ってすぐに電気が止まったことがありまして(笑)。
それは家のですか。
西村:はい。1人暮らしをしていましたが、いざ電気が使えなくなると、いかに今まで自分が生活する上で、電気に頼ってきたのかというのを嫌というほど思い知らされました(笑)。それで、電気のことを知っておかなきゃいけないな、と思ったわけです。
なるほど。それで電気工学科へ進んだのですね。研究室は、日高・熊田研究室ですね。
西村:そうです。日高・熊田研究室を選択した理由は、3年生のときに5月祭で雷の実験のお手伝いをしたことがきっかけです。
東京大学の本郷キャンパスで、毎年5月に開催される大学祭・学園祭のことですね。実際に雷を発生させたのですか。
西村:ええ。日高・熊田研究室は、高電圧を扱う研究室で、天井まで届くような設備がたくさん並んでいます。3階まで吹き抜けになっているホールがあって、雷を起こせるのです。とにかく音の迫力が、凄まじいものがありますね。
まさに雷の「ドーン」という感じですか。
西村:はい、実際に雷が落ちるのを見て、衝撃を受けましたね。それから、「木と人間のどっちに、雷は落ちるのか」という実験もやりました。
どっちに落ちるのですか(苦笑)。
西村:雷は高い方に落ちやすいので、木に落ちます(笑)。ただし、あまりに近いと側雷といって人間にも落ちますが。このような実験を色々とお手伝いしている中で「高電圧って面白いな」と思いまして、日高・熊田研究室へ入ったわけです。
■光で電気を測る、超電導ケーブルの謎の解明、史上初の研究に挑む

それでは、大学時代は、どのような研究をされていたのですか。
西村:はい、気体の中にある放電の現象などの研究をしていました。私がやっていたのは、ポッケルス効果という現象の応用研究です。
ポッケルス効果とは何ですか。
西村:簡単に言えば、特殊な誘電体を電界の中に置いた状態で、光を通過させると、光の屈折率が(誘電体の中で)変化するという不思議な現象があるのです。これをポッケルス効果と呼んでいます。私は、この現象を利用して、光の屈折率の変化を見ることで電界の大きさを測る研究を行っていました。
光で電界を測ることによって、従来の計測と何が違うのですか。
西村:これまでの測定は、計測機器を電界に接触する必要があるため、電界が乱れ、正確な測定が出来なくなることがあったのです。一方、このポッケルス効果の場合は、光を当てるだけなので、接触しないで計測ができます。そのため、非常に理想的な計測方法と言われており、従来不可能だった放電現象の直接計測も可能になるのでは、と期待されている新技術です。
凄いですね!歴史上初の計測技術ですか。そのポッケルス効果をずっと研究されていたのですか。
西村:いや、これは学部生の頃の研究です。大学院へ進んでからは研究が変わりまして、今まさに住友電工でやっている超電導ケーブル※に用いられる電気絶縁材料の特性を調べるということをやっていました。
具体的に言うと、どういう研究なのでしょうか。
西村:超電導ケーブルの絶縁材料には、PPLP(ポリプロピレンラミネート合成絶縁紙)という絶縁紙が使用されているのですが、-200℃の低温状態での特性が十分には解明できていないのです。この特性を解明することによって、もっとPPLPを薄くして、ケーブルをコンパクト化しようとする取り組みです。小型化することにより、超電導ケーブルのメリットをさらに向上させることを目指す研究です
そのPPLPの特性は解明されましたか。
西村:いや、残念ながら、いまだに十分には解明されていません(笑)。でも、解明の難しいハードルの高い研究のお陰で、超電導ケーブルが私にとってライフワークとなりました。
※超電導ケーブルとは、電気抵抗がない超電導体を使用した送電ケーブルのこと。電気抵抗が"ゼロ"であるため、現在、使用されている銅よりもはるかに、高効率・省電力なケーブルとなる。



