電気は、本当に貯められないのか?

2012年1月掲載

2011年3月11日の東日本大震災では、発電所等が大きな被害を受けたため、関東地方、東北地方で大変な電力不足に陥り、計画停電等もあり、社会に大きな影響を与えました。現在も各家庭や企業などで節電が行われていますが、「電気が貯められたらなぁ」と、そんな思いを持った方も多いのではないでしょうか。

電気は「生モノ」だから、貯められない!?

電気はよく「生モノ」だから、貯められないと言われます。これは正確に言うと、「安く、大量に貯めておくのが難しい」という意味です。家庭においては、少ない電気ならば、身近にある乾電池やバッテリーに貯めることができます。しかし、社会全体で使う膨大な量の電気をすべて貯めておくことは、現在の技術では事実上、不可能と言わざるを得ません。

●家庭で使う電気を単3乾電池で賄うと1日50万円!

これを詳しく説明すると、電気を貯める為には、一旦別のエネルギーに変換する必要があります(※)。この変換時にはエネルギーのロスが発生するため、大量の電気を貯蔵するには、エネルギーロスも大量に発生し、大きなコストがかかります。そのため、社会全体を賄う電気を貯めるには、莫大なコストと広大な敷地が必要となり現実的ではありません。身近な例では1日に家庭で使う電気を単3乾電池で賄うと、約5000本も必要になり、乾電池1本100円とすると、1日50万円もかかる計算です。

ちなみに、家庭やオフィスで使っている電気は、光と同じ秒速30万㎞の速さで発電所から届いたものです。これは、1秒で地球を約7周半できる速さです。今、皆さんを照らしている照明の電気は、まさにたった今、発電所で生まれたものと言えます。電気は、まさしく「生モノ」なのです。

(※)一部の機器では電気を直接貯めることもできます。

電気を貯める取り組み

とはいえ、電気を大量に貯めることは、今回の震災のような緊急時の備えや、次世代の電力システムなどに大きく貢献する、重要な技術課題であることは間違いありません。今回は、「電気を貯める」取り組みについていくつかご紹介します。

揚水式発電

揚水式発電は、発電所の上部と下部に大きな調整池をつくり、電力供給に余裕のある夜間帯に水を汲み上げ、昼間帯にその水を利用して発電します。電気を水の位置エネルギーとして蓄えています。電気量は元の7割程度に減りますが、余った電気によって貯めることができ、電力系統を安定的に保つことに役立っています。現状の揚水式発電の供給量は2600万キロワット(2010年度最大電力の15%)程度あります。様々な制約により、一度に全ての揚水式発電は使えませんが、主に需要のピーク時に使用され、今回の東日本大震災でも活躍しました。

揚水式発電の仕組み

電気自動車

東日本大震災以降、電気自動車(EVカー)を、家電などと接続できる電源車として使う取り組みが急ピッチに進んでいます。例えば、日本初の量産型・電気自動車の三菱自動車i-MiEV(アイ・ミーブ)は、蓄電池に一般家庭の1日~1.5日分の電力を蓄える事ができ、災害時の非常用電源としての利用が期待されています。

揚水式発電の仕組み

電気自動車/アイ・ミーブ

NAS電池

NAS電池(ナトリウム(Na)・硫黄(S)電池)とは、繰り返し使用できる二次電池で、メガワット級の電力貯蔵システムです。大容量、高エネルギー密度、長寿命を特長とし、鉛電池の約3分の1のコンパクトサイズで、長期にわたって安定した電力供給が可能です。ただし大型の電池であるため、家庭用としては難しく、ビルや工場向けに開発されています。また、NAS電池の特性上、高温状態で使用するため補機として温度維持のための保温装置が必要です。

超電導電力貯蔵(SMES)

SMES(Superconducting Magnetic Energy Storage) は、超電導の電気抵抗がゼロという特性を活かして、電気を直接超電導コイルに磁気エネルギーとして貯蔵するものです。電気を直接貯蔵することで、高い貯蔵効率で大電力を素早く供給することができます。大容量の電力を瞬時に繰り返し充電・放電することができるなど、従来の技術をはるかに超える優れた特長を有しており、これが実用化されると、電力ネットワーク制御用として極めて有望な機器となります。

Q3 まとめ

東日本大震災以降、このように、様々な電気を貯める取り組みが進んでいます。経済産業省でも蓄電池戦略プロジェクトチームが設置され、多様な面での活用を検討しています。しかし、まだまだ多くの技術課題が残されているのも現実です。その課題を1つ1つ解決するためには、キーテクノロジーとなる電気工学の一層の発展が必要なのです。

この記事に関連する電気工学のキーワード

  • 電力機器
  • 超電導
  • 電気自動車
  • 蓄電池

バックナンバー一覧

[2023年7月載] 第37回 人工知能と電気工学

人間も人工知能も「学習」と「電気」が不可...

[2022年11月載] 第36回 ヒートポンプの応用

熱エネルギーの「もったいない」を減らそう...

[2022年7月載] 第35回 避雷針の仕組み

避雷針は、雷を避けるのでなく誘うもの。

[2021年11月載] 第34回 虫めがね実験と太陽熱発電

太陽の「光」ではなく、「熱」で発電する方...

[2021年7月載] 第33回 ごみ発電のメリット・デメリット

「燃えるごみ」で発電しよう!

[2020年12月載] 第32回 引力と潮力発電

なんと、潮の満ち引きで発電できた!

[2020年7月載] 第31回 生体の電気現象と医療機器

人のカラダの中には、弱い電気が流れている...

[2019年12月載] 第30回 静電気の利用

コピー機は、 冬の天敵・静電気を利用して...

[2019年7月載] 第29回 太陽とプラズマ

宇宙にも天気予報があった!

[2018年12月載] 第28回 マイクロ波の利用

電子レンジは、なぜ食べ物をあたためられる...

[2018年7月載] 第27回 環境発電(エネルギーハーベスト)とは

小さなエネルギー、収穫しませんか?

[2017年12月載] 第26回 電車が動く仕組み

電車が、電線1本で走れる理由。

[2017年8月載] 第25回 雷の不思議

なぜ、カミナリはジグザグに落ちていくのか...

[2016年12月載] 第24回 地球とプラズマ

オーロラの光の正体、それは?

[2016年7月載] 第23回 電気魚の不思議

電気ウナギは、なぜ電気を出せるのか?

[2015年12月載] 第22回 モーターと回生ブレーキ

時速270kmの新幹線は、発電しながら止...

[2015年8月載] 第21回 電気通信の仕組み

シャーロック・ホームズのメールは、電報で...

[2014年12月載] 第20回 電気の未来社会

未来は、コードやケーブルがなくなる?

[2014年8月載] 第19回 スピーカーとフレミングの法則

テレビの音を小さくすると、節電になるのか...

[2014年1月載] 第18回 電気のトリビアその3

身近な電気のフシギ、集めました

[2013年11月載] 第17回 電気のトリビアその2

ちょっと得する電気の雑学、集めました

[2013年9月載] 第16回 電気のトリビア

暮らしの中の電気トリビア、集めました

[2013年3月載] 第15回 野球と電気エネルギー

万能選手!電気は多才なエネルギー。

[2012年9月載] 第14回 オリンピックと電気工学その2

バレーも電力もIT管理。

[2012年7月載] 第13回 オリンピックと電気工学その1

水泳も送電も抵抗をなくそう!

[2012年5月載] 第12回 震災と電気工学その3

電気工学的、節電とは?

[2012年1月載] 第11回 震災と電気工学その2

電気は、本当に貯められないのか?

[2011年11月載] 第10回 震災と電気工学その1

周波数変換の謎、徹底解剖。

[2011年6月載] 第9回 LED照明のメリット/デメリット

いま流行(はやり)のLED照明とは、何も...

[2010年12月載] 第8回 電力系統と駅伝

電力も駅伝も、最適配置で勝負。

[2010年9月載] 第7回 医療機器応用の歴史

日本最古の電気機器「エレキテル」は、医療...

[2010年4月載] 第6回 人工衛星と太陽電池

世界ではじめての太陽電池は、人工衛星に積...

[2010年4月載] 第5回 宇宙船と燃料電池

2010 年、宇宙の旅のおともに「燃料電...

[2009年12月載] 第4回 ヒートポンプと打ち水

ヒートポンプの元祖は、「打ち水」でした。

[2009年5月載] 第3回 電気自動車とミニ四駆

電気自動車は実物大"ミニ四駆&...

[2008年10月載] 第2回 パワーエレクトロニクスとボランチ

サッカーと電力の舵を取れ!

[2008年7月載] 第1回 超電導と浮遊術

ハリーポッターの空飛ぶホウキと超電導体

すべて表示する

5件だけ表示

サイトの更新情報をお届けします。

「インタビュー」「身近な電気工学」など、サイトの更新情報や電気工学にかかわる情報をお届けします。

メールマガジン登録


電気工学を知る