応用化学は、化学を工学的に応用する学問。化学的な見知からモノづくりを行います。「導電性ポリマー」「バイオマス」「二次電池」など、電気工学に関連する開発も多く、様々な技術や製品を支え合っています。

日本初の量産型・電気自動車「アイ・ミーブ」に見る、電気工学と応用化学

三菱自動車工業(株)の「i-MiEV(以下:アイ ・ミーブ) 」は、日本初の量産型・電気自動車です。2009年6月に法人向けとして発売。2010年4月には個人向けの販売が始まります。いよいよ、排気ガスを一切排出しない、クリーンなクルマが街中を走ります!

アイ・ミーブでは、駆動用バッテリーに最新のリチウムイオン電池を採用して、駆動システムの性能を大きく向上させ、量産化に成功しています。ここでは、アイ・ミーブの充電から走行までのプロセスにおける、充電器と主要な駆動システム(バッテリー、インバーター、モーター)にスポットを当てて、電気工学と応用化学を紹介します。

i-MiEV(アイ ・ミーブ)

充電から走行までのプロセス

各機能の詳細

1. 車載充電器

ASHIMOの挨拶

車載充電器&DC-DCコンバーター
※アイ・ミーブの場合、駆動用バッテリーから灯火類、オーディオなどを駆動させる補機用バッテリーを充電するDC/DCコンバーターを一体化させています。

アイ・ミーブの充電方法には、家庭用コンセントを使った「普通充電」(AC200V(15A)/約7時間満充電、AC100V(15A)/約14時間満充電)と専用の急速充電器を使った「急速充電」(三相200V 50kW/約30分で80%充電)があります。
「車載充電器」は家庭用コンセントからの充電を担う装置で、コンセントの交流電力をバッテリーの直流電力に変換する電力変換を行っています。電力変換がうまくいかないと、エネルギー損失となりバッテリーに蓄える電気エネルギーの量が少なくなってしまいます。電力変換技術は電気工学の主要分野のひとつです。なお、急速充電器は車載充電器と同じ機能ですが、電源の容量が大きいので、短時間で充電させることが可能なのです。

2. バッテリー

ASHIMOの歩き・走り

リチウムイオン電池セル
※セルとは、複数の電池を組み合わせて一個とした構造の電池。

アイ・ミーブの「バッテリー」には、エネルギー密度の極めて高いリチウムイオン電池を採用しています。計88個の電池セルを直列に接続した大容量の駆動用バッテリーとなっています。
応用化学では、このリチウムイオン電池の材料研究及び開発を扱います。電池には、リチウム以外にもマンガン、コバルト、ニッケルなどが入っており、材料比や特性の最適化を考えるのが、応用化学の分野です。
一方、電気工学に関しては、リチウムイオン電池を安全かつ効率よく使用するための制御技術が適用されています。

3. インバーター

バッテリー

インバーター

インバーターとは、バッテリーの電圧を直流から交流に変換し、走行に必要な電気をモーターに供給する装置です。アイ・ミーブには直流モーターより効率の良い交流モーターが使用されています。家庭では扇風機や掃除機などの電気機器に交流モーターが使用されています。
インバーターには、アクセル操作に応じたモーターのトルク(加速力)を最適に制御する役割があります。半導体を使ったスイッチング素子によってモーターに供給する電気を最適に調整しているのです。
これら電力変換技術とモーター制御技術は、電気工学の分野です。

4. モーター

バッテリー

永久磁石式同期型モーター

アイ・ミーブの動力源となるモーターは、永久磁石式同期型モーターを搭載しています。現在、実用化されている磁石では最も強力とされているネオジム磁石を採用しており、高効率化と小型軽量化を実現したハイパワーモーターです。発進時から最大トルクを発生させることが可能で、軽快な走りが楽しめます。
モーターは電気エネルギーを機械エネルギーへ変える装置で、モーターに流れる電流と永久磁石との間に働く電磁力で回転します。
モーター技術も、電気工学の分野です。
なお、応用化学は、モーターの材料となる磁石やインバーターの半導体素子など、電気自動車における材料の高性能化に貢献しています。

◆アイ・ミーブ開発者に聞く。「電気自動車における、電気工学の重要性」

「アイ・ミーブ」が量産化に成功した、大きな要因は電池の制御技術です

開発本部
EV・パワートレイン技術部(EV要素開発担当)
蒲地誠氏

蒲地誠氏

電気自動車は、「電気」と名がつくとおり、電気工学が大きなウェイトを占める製品です。モーター、インバーター、充電設備、LEDライト、冷暖房機器、数え挙げればきりがありません。今回、アイ・ミーブが量産化に成功したのも電気工学の技術が大きく貢献しています。量産化に成功した一番の要因は、高性能リチウムイオン電池の出現ですが、その実用化に至ったのは、電気工学における制御技術によってです。これまで高性能リチウムイオン電池を積んで走った国産の量産車はなく、ノウハウが全くない中で、電池をいかに安全に使用するのか。これが大きなハードルだったのです。

例えば、電気自動車における電池の残量をはかるのも制御技術です。簡単に思えるかもしれませんが、非常に高度な技術なのです。携帯電話などの電池と違って、電気自動車は電流のレベルが桁違いに大きく、加速・減速に応じて電流の量が変わっていきます。さらに、回生ブレーキ(※)が働いた時には、運動エネルギーが電気エネルギーに変換されて電池に戻ってくるので、走行中にも充電が行われています。よって、電池が壊れないように各部の温度や電圧、電流などのバッテリーの情報を常にモニターして、電池制御に反映する必要があります。こうした課題を全て解決できる制御技術の実現のために、数年にわたる試験走行を行い、量産化に至っています。

電気自動車はコンセントを通じて直接電力系統につながるため、限りない可能性があります。これからも、電気工学技術の進歩は、大きく電気自動車を発展させていくことになると思います。

※回生ブレーキ
通常、動力源として使っている電気モーターを発電機として作動させることで回転抵抗を発生し、エンジンブレーキと同じような働きをさせるもの。その時発電された電力はバッテリーに回収され、駆動力に再利用される。

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